日本一からさらなる飛躍を 最新技術で挑む世界のワイン市場

日本一からさらなる飛躍を 最新技術で挑む世界のワイン市場
農薬をほとんど使わずに育てられたぶどうで造る有機ワイン。ワインの生産量日本一を誇る山梨県では、日本で難しいとされてきた有機栽培に乗り出し、世界で高まる需要をいち早く取り込もうとしています。鍵を握るのが人工知能=AI。新たなテクノロジーを武器に山梨産の有機ワインが世界を席けんする日も遠くないかもしれません。(甲府局記者 飯田章彦)

有機栽培が難しい日本

一部が茶色に変色し、腐食が進む葉っぱ。

かびを原因とする「べと病」におかされたもので、短期間で広がることから深刻な被害をもたらします。

特に高温多湿の日本ではさまざまな果物や野菜の脅威となっていて、農作物栽培を進めるうえで農薬や化学肥料に頼らざるを得ない大きな要因の1つです。

一方、安全安心な食材を求める声は世界の潮流となっています。

国もことし法律を改正し、酒類を有機認証する制度を導入するなど、本格的に有機栽培の製品の輸出を支援、拡大する方向にかじを切りました。

“オール山梨”で有機ワイン造りを

こうした流れを受けて、ワインの生産量日本一を誇る山梨県では、これまで難しいとされほどんど行われてこなかったぶどうの有機栽培にいち早く乗り出しています。
国内唯一のワイン専門の研究機関「山梨大学ワイン科学研究センター」や地元のワイナリー、それに県や金融機関なども参加してコンソーシアムを設立。オール山梨で、取り組む態勢を整えたのです。

背景にあるのが安全安心なワインを求める世界的な需要の高まりです。
イギリスの市場調査会社によりますと、世界の有機ぶどうの栽培面積は、年平均10%以上のペースで増加し、今では、世界全体の栽培面積の6.2%までになっています。

AIで病原菌の発生リスクを予測

コンソーシアムは、AIを活用した全国初の病原菌発生予測システムを開発しました。
このシステムでは、まず、ぶどう栽培や生育環境に関わる温度や湿度などを測定するセンサーを畑に設置し、集めた情報をクラウド上にあるシステムに送ります。

ここには、過去の気象情報や病原菌の発生状況などぶどう栽培に関わるデータが蓄積されていて、これをもとにAIが、病原菌の発生リスクを予測します。
例えば雨が続き、病気になるリスクが高まったと判断すると、その情報が生産者のスマートフォンに届けられ、素早い対応が可能となります。

病気の予測だけでなく過去の開花や摘果、肥料や農薬の散布の時期なども確認できるため、品質の向上にも役立てられるといいます。
有賀さん
「スマホでいろんな情報が得られるということと今まで見えなかったものをデータで見えるようにするという意味でも生産者にとっても魅力的な技術です」

さらに精度の向上へ

あわせて、山梨大学ワイン科学研究センターが開発した、病原菌検査キットを活用することでシステムの精度はさらに向上するといいます。
このキットで定期的にぶどうの葉や茎などを検査し、病原菌の種類や量などを確認します。

病原菌が一定の水準を超えると、病気の発生時期が予測できるようになるため先手先手で対策が打てるのです。
鈴木センター長
「べと病などの病気は、葉の表面に現れたときにはすでに手遅れになってしまうた め、生産者は予防のため、必要以上の農薬をまいてしまうことも多い。このシステムで病気の発生を予測できるようになれば、必要最低限の農薬で病気の発生を抑えられる」

日本のワイン造りを変える可能性も

このシステムを利用する農家が増えれば増えるほど、蓄積されるデータも増えて、予測精度の向上が期待できるということで、今後、地元のワイナリーや農家など地域に広く参加を呼びかけていくことにしています。
日本のワイン造りを変える可能性を秘めた今回の取り組み。

世界市場をにらんだ今回の挑戦に期待を持って取材を続けたいと思います。
甲府放送局記者
飯田章彦
2004年入局
山梨県の魅力を発信すべく宝石産業やワイン業界などを取材
有機ワイン造りは世界市場で評価を高める大きなチャンスと期待しています